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電子版お薬手帳

1)お薬手帳とは

お薬手帳とは、薬の服用履歴や、既往歴、アレルギーなど、医療関係者に必要な情報を記載する手帳であり、医師や歯科医師、薬剤師が、患者がどのような薬をどのくらいの期間使っているのかを確認するために使用する。日本の医療制度においては、患者は日本中のどの医療機関でも受診できるという「フリーアクセス」となっており、また医療機関が持つ医療データの共有化も中々進んでいないということからも、このお薬手帳を活用し、複数の病院を使う患者の薬物相互作用(飲み合わせ)の管理にも用いられ、お薬手帳の所有や管理は各患者が行う。2000年に、薬の飲み忘れチェックなどの効果が期待されて国の制度となり、調剤報酬として評価されるようになった。

2)どこでもMY病院構想と電子版お薬手帳

その一方で、クラウドやスマートフォンなどのICT技術の進展に伴い、政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が2010年5月に公表した「新たな情報通信技術戦略」における医療分野の計画の一つとして、「どこでもMY病院」構想を掲げた。「どこでもMY病院」は「自己医療・健康情報活用サービス」の別名があるように、利用者向けのサービス、つまり「PHR(Personal Health Record)」の一つと考えられ、その具体的な実現内容として「電子版お薬手帳」が挙げられていた。

その「どこでもMY病院」構想を受け、電子版お薬手帳の導入が進んでいる。一般社団法人保健医療福祉システム工業会(JAHIS)は、電子版お薬手帳の標準化を進めるべく2012年9月に「電子版お薬手帳データフォーマット仕様書 Ver.1.0」を公開し、2013年9月には同仕様書Ver.1.1を公開した。一部の薬局では、同仕様書に対応したQRコード(以下、JAHIS QRコード)が調剤明細書などに印字されており、そのJAHIS QRコードに対応した電子版お薬手帳アプリでは、JAHIS QRコードをカメラで読み取ることで、薬の種類や効能など薬の情報をアプリ内に自動的に記録できる。

3)電子版お薬手帳の変遷

電子版お薬手帳は近年、地方の薬剤師会や調剤薬局チェーンが独自に専用アプリを開発し、サービスを展開している(表1)。JAHIS QRコードが登場する前は独自のQRコードを発行するタイプや、手でお薬名などを入力するタイプが主流であったが、2012年9月のJAHIS QRコードの登場以降、JAHIS QRコードを読み込める電子版お薬手帳が主流となっている。

また電子版お薬手帳の機能も大きく変わってきている。当初は紙のお薬手帳を電子化した「単機能版アプリ」がメインであったが、最近では、飲み忘れ防止のアラーム機能やバイタルデータなどの記録機能、処方せん送信機能などが付加された「多機能版アプリ」へと移り変わってきている。

さらに当初はアプリ内にデータを保存するタイプのものから、クラウド上にデータを保存し、東日本大震災のような災害時でもデータを失うことがなく、利用継続可能なサービスへと変わってきている。

<表1>主な電子版お薬手帳

サービス名 サービス提供者 備考
大阪e―お薬手帳 大阪薬剤師会
お薬玉手箱 日本保険薬局協会
harmo(ハルモ) ソニー 川崎市を中心に導入
ポケットファーマシー メディカルフロント
お薬手帳プラス 日本調剤
アインお薬手帳 アインファーマシーズ
クオールおくすり手帳 クオール

2015年5月末現在

4)電子版お薬手帳サービスの課題

調剤薬局チェーンなどが個別にサービスを展開していることから、別の系列薬局や地域が違う薬局では対応できず、「服用薬歴」をまとめて管理できないとの課題が指摘されている。


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