History

私たちのこれまでの歩み

なぜ株式会社メディエイドは今のような事業を行っているのか。
本ページにおいてはその背景をお伝えできるように、株式会社メディエイドが最初に始めたがん闘病記サイト「ライフパレット」のサービス提供から、現在に至るまでにこれまで乗り越えてきた歴史を少しお伝えできればと思います。ここで説明している用語は、用語集(Glossary)ページや医療ヘルスケアDXページ(医療ヘルスケアDX、PHR、医療ヘルスケアUX/UI、デザインシステム)でも詳しく説明していますので、お時間がございましたら、ぜひご覧になってください。

患者のQOLを上げる患者メディア…「ライフパレット」

メディエイドは創業当時から一貫して患者参加型医療を目指すという姿勢で事業を行ってきました。そのメディエイドがまず手掛けたのは、2006年にがん対策基本法が制定されたことをきっかけに、まずは疾患領域を「がん」に絞り、がん患者さんへの調査などを経て、闘病記ニーズの高さに気づき、がん患者のための闘病記サイト「ライフパレット」を構想することとし、2008年にがん患者のための闘病記サイト「ライフパレット」を運用しました。

この闘病記サイトは、患者のQOL(Quality Of Life:生活の質)が医療・心・生活という3つの要素から成り立っているとし、医療機関では医療領域は十分にサポートされている一方で、心や生活においては十分にはサポートしきれていないと考え、患者同士が参加するSNSというソーシャルの力で解決するという発想でした。患者が参加して日々の病気体験を綴ることでナレッジ化(データベース化)し、先に病気を体験した患者の経験を見て、他の患者が治療の意思決定を行えるようにするという患者エンパワーメントを目指したサイトを目指しました。またリアルタイムでの患者同士の支え合いや教え合いということもこの中においては可能です。

この闘病記サイトには多くのがん患者さんや、その他の疾患の患者さんにもご利用頂き、患者同士での支えなども見られ、社会的にもとても意義のあるサイトであったと考えています。その頃は多くのメディアにも取り上げていただきました。またこのような他の方の病気体験記を参考にして治療意思決定を行うという行動は、医師にすべての治療方法の決定を委ねる姿とは異なり、昨今におけるShared Dicision Making(共有意思決定支援)を行うための一つのプラットフォームであったとも考えております。

旧ライフパレットのインターフェイス

しかし2008年当時は、今とは全くIT環境が異なる世界で、まだスマートフォンもクラウドもない時代です。利用者の利用端末はパソコンもしくはガラケーが主体という状況であり、ガラケーではなかなか高機能なアプリは作れませんし、パソコンでは利用者層に高齢者は少なく、そのような状況から見て、このサービスを利用できる患者さんは限られてきます。現在のような比較的高齢な方もスマートフォンを使う状況とは利用者層が大きく絞られてきます。

さらに当時はまだクラウドサービスはありませんでした。サーバー環境は、自らデータセンターにサーバーを設置するためのラックを借り、そこにサーバーをラッキングして、ネットワーク工事を手配するなどサーバー構築自体が非常にコストと手間のかかるものでした。さらには今のクラウドのように使った分だけコストがかかるというものではなく所有するという世界であったため、サーバーを構築・運用できる人材も必要で、運用コストが固定費として大きく掛かって来るものでした。

利用してくれる患者さんを集めるにも利用者層が限られてきて、また運用コストもクラウド環境ではないために大きく固定費としたかかってくるという状況でした。そしてさらにはメディアとして事業を軌道に乗せるには広告主が必要でしたが、「がん」というテーマということもあり、広告規制などからも広告主を探すことも非常に困難な状況であり、蓄積された闘病記データをマネタイズするという発想も、当時考えていたものの、今のようなディープラーニング技術もない中では定性的なデータを活用してビジネスにするということも困難な状況でした。

闘病記サイト「ライフパレット」においては、さらに患者さん向けに専用ECサイトなども取り組み、本当にあらゆる手を尽くしながらも、事業として成り立たせることができず、2010年末にはほぼその事業化の目途をあきらめることになりました。やっていることが正しくても、事業の成否を決めるのはタイミングである、ということを思い知った時でした。

東日本大震災の発生と事業の転換…スマホ×クラウドを活用したSIサービス

そのようなメディエイド存立の危機が迫る中で、2011年3月には東日本大震災が発生します。

その時には、多くの電子カルテや薬歴などが流されました。と同時に、IT環境ではスマートフォン端末やタブレット端末などのスマートデバイスが登場し、さらにはクラウドの広がりという大きな潮流もあり、クラウドでの医療データ保管という議論や、どこでもMy病院のような内閣府が進めるPHR(Personal Health Record)として患者自身が健康データを自分で保管するという流れもこのときに出てきました。

このような機会が存在する中で会社の生き残りをかけて、私自身としては2000年からIT業界に身を置いていたということもあり、医療ヘルスケア領域におけるシステム構築(医療ヘルスケアSI)サービスの立ち上げに、まずは生き残りをかけることにし、スマホアプリやクラウド、特にクラウドにおいては医療情報ガイドラインへの対応というノウハウなどを蓄積しながらまずは会社としての土台を作ることに専念をします。2011年には薬局向けシステム構築として薬歴システムと連携をした訪問薬剤師向け在宅システムの構築、2014年には電子版お薬手帳サービスなどの構築などを行いながら、薬局業務についてのノウハウを蓄積してきました。

さらには医師の協力を得ながら、2013年にはスマートフォンと血糖自己測定器(SMBG)を自動データ連携するスマホアプリ「ライフパレット・ダイアベティス」や、管理栄養士と協力して食事データベースを活用しながら食事記録を簡単に行うことのできる食事管理アプリ「ライフパレット食ノート」を他に先駆けてリリースをし、製薬企業が持つ健康管理サイトとデータ連携をするという仕組みを作り上げました。

その他にもポイント・インセンティブやオンライン・トレーナーなどの要素を入れた体重管理システムの構築や、クラウドを医療ヘルスケア領域で活用することをテーマにした総務省と経済産業省の健康・医療クラウドコンソーシアム事務局の対応などにも取り組み、医療ヘルスケア領域におけるプラットフォームのあり方についての議論・検討をしてきました。

左)ライフパレットダイアベティス 右)食ノート

患者プラットフォームの構築へ…ライフパレット・プラットフォーム

医療ヘルスケアSIサービス構築においては、医療ヘルスケア領域におけるサービス構築ノウハウ、そして技術的、業務的なノウハウが蓄積されていきますが、それはメディエイドの資産として、目に見える形としては残っては行かないことがデメリットでした。どうにかしてメディエイドの資産として残していけないか・・・そして患者メディアとしては立ち行かなかった「ライフパレット」を別の形で復活させることができないか・・・

医療ヘルスケアSIサービス構築やコンソーシアムで取り組みを行いながら、現場の医療従事者や介護従事者などと色々と話す中で、医療・ヘルスケア領域においてはどうしても情報の非対象性が大きく、患者のみで事業を成り立たせることの難しさを体感し、患者のみでなく医療従事者さらには介護従事者や、そして病気という領域のみでなく健康・予防という領域まで広げて考えると、もっと色々なステークスホルダー(医療ヘルスケア・ステークホルダー)とつなげるという発想が必要なのではないかと思い、患者を医療従事者や介護従事者などをつなぐ「プラットフォーム」として再構築することができないものか、という考えに至りました。

NTTの研究所に所属していたときに、光ファイバーを電話局から家庭までつなげることが大きなハードルということもあり「ラスト・ワンマイル」と呼んでいたのを思い出し、きっと患者が様々なステークホルダーとつながるということも同じ「ラスト・ワンマイル」なのであろうと思い、この構築するプラットフォームが「ラスト・ワンマイル」を作れるのではないかと思い、患者参加型医療を作る手段として、最初にチャレンジした患者向けSNSと、この患者までのラスト・ワンマイルを繋ぐプラットフォームを作る決心をし、2016年から構築を開始することを決心しました。

2015年12月に記したプラットフォーム構想のメモ

「ライフパレット」にはこれまで定性的、ナラティブな情報がデータベースとして蓄積されていました。これも広い意味ではPHR(Personal Health Record)データではありましたが、ここに医療ヘルスケア機器やスマホで記録される定量的なデータ、つまりバイタルデータや検査データ、食事の写真、運動の記録なども登録できるようにして、データとしての利活用がしやすい形にすることとしました。またSNSについては、米国においては大きなサービスに発展をしたPatientsLikeMeを見ながら、このPHRデータをベースとして、病名や薬剤名などをFacebookにおける学校名や会社名に相当するプロフィール情報として見立て、それらの情報をベースとして患者同士が探して、つながれるような、新たな患者コミュニティサイトとしました。

「ライフパレット」刷新構図(トップページ)

さらにそのPHRデータは、これまで開発したアプリ群を改めてプラットフォームにつながる形で作り替え、つなげることで実現する、そんな構想を描いたのが、このライフパレット・プラットフォームです。

PHRデータを蓄積・参照するためのプラットフォームというよりも、PHRデータを蓄積しつつ、患者同士が、そして患者と医療従事者がコミュニケーションすることができるプラットフォームという考え方です。その患者と医療従事者をつなげるサービスは「パレットライン」と名付け、あらたなサービスとしてリリースしました。

電子版お薬手帳システムの構築時などの薬局業務ノウハウからは「薬局向けパレットライン」を、そして食事管理アプリ開発時のノウハウや、体重管理システム構築時のノウハウから「管理栄養士向けパレットライン」を、さらに血糖値管理アプリ開発時などのノウハウからは「医療機関向けパレットライン」を開発することで、プラットフォームにつなげることにしました。

しかし、この構想は私の頭の中にしかなかったため、単に要件定義をして概要を開発メンバーに伝えるだけでは正確に、かつディテールには伝わらない・・・要件定義に止まらず、どのよう画面があって、どのようなことができるのかを具体的に開発メンバーに伝えるには設計書を書いて、自らの構想について、手を動かしながらさらにディテール化しながら、開発メンバーに伝えていく以外にないと決心をし、1500枚を超える設計書を自ら作成することとし、それを開発メンバーに伝えることで、このプラットフォーム・システム構築を進めました。

現Platform概念図

VUCA1の時代に合わせた医療ヘルスケア・プラットフォームを

 メディエイドは「患者参加型医療」という社会貢献性の高いミッションを掲げながら、同時に事業性についての両立も図り、さらにサスティナブルに継続可能なサービスとしていくことはとても難しい事と考えています。一度、がん患者闘病記としたの「ライフパレット」の事業可能性を諦め、「ライフパレット・プラットフォーム」として再出発をすることとしてプラットフォームを構築し、0から1にしました。

 しかし先に述べたNativeアプリで開発をしていたという点、そして構想に向けて各プロダクト・サービスを開発していたものの、構想を考えながらも平行で各プロダクト・サービスを順次開発している状況であったため、構想に完全に沿ったアーキテクチャには完全にはできなかった点、この2つのネックを掲げながらも本当に成し遂げたいことができるのか・・・

 そのように悩みを持つ中において、2020年2月に新型コロナウィルスが広がりました。そして新型コロナウィルスは世の中の価値観や行動様式を大きく変えました。これまでオフラインに付属する形でオンラインがあり、デジタルとは一つの道具という状況だった世界から、オフラインとオンラインが融合化し、デジタルを使っていることが当たり前の世界、すなわちデジタルトランスフォーメーション(DX)が一気に加速しました。またこのようなデジタル化のさらなる加速と並行して、昨今では世界においては至るところで異常気象が発生しています。そして地球温暖化、いや地球沸騰とも言われる状況になり、熱中症や感染症などの医療ヘルスケアにも影響を及ぼしはじめています。このような気候変動に対するカーボンニュートラルの動きも世界中で加速しており、ますます先が読めない世の中になってきています。

 そのような中、0→1へと踏み出すために生み出したプラットフォームでは明らかにこのVUCAへの対応はできないと判断をしました。このようなVUCAの時代に対応するためには、この世に芽を出した医療ヘルスケア・プラットフォームである「ライフパレット・プラットフォーム」は一旦なくし、さらに違う形のプラットフォームに変えていくべき時を迎えたと考えました。

 私たちはこのVUCAの時代に合わせ、「ライフパレット・プラットフォーム」という大きな資産は一旦捨てて、新たなプラットフォームを構築することにしました。ただこれで完全に0になるのか・・・、ただ私たちには「ライフパレット・プラットフォーム」で得た失敗を含めた貴重な経験、そして張り巡らせてきた思考の根から、もっとこのVUCAの世界に合う医療ヘルスケア・プラットフォームに進化させようと、2021年からは1→10の試みを開始しました。まずこの思考の根をもっと強く、もっと深く、広く張り巡らせることができるように、私たちのミッション・ビジョンを2022年に見直し、これまでの「患者」のみに目を向けるのではなく、健康なときから予後に至るまでを含めた「生活者・患者」に目を向けることとしました。

 そして加速する世の中に変化に柔軟に対応できる医療ヘルスケア・プラットフォームに強化・バージョンアップすべく、アプリケーション・アーキテクチャを全面的、抜本的に見直した医療ヘルスケア・プラットフォーム「LiNQ-CIRCLE(リンク・サークル)」に2022年までに世の中に出すことができました。これが下図の表現の花にあたります。

デザイン2思考を取り入れながら、サービス共創を目指す

 アート思考で生み出した新たなプラットフォームを出すことでアプリ開発スケジュールの大幅短縮化、アプリ開発コストの大幅低減、さらにはアプリ改修のスピードアップが図れると期待しています。しかしこれだけで足りるのか・・・花は成長するのか・・・

 2024年を迎え、新型コロナウイルスを経た日本そして世界においては、新型コロナウイルスの前とは大きく異なり、GAFAを中心としたデジタル技術が社会の隅々まで一気に浸透したと感じています。これは2021年に新たなプラットフォームを構築しようと決意したときからも、エクスポネンシャルに世の中が変わったと感じています。そしてその世の中の変化に合わせるように医療DXも国主導で急速に進んでいます。そのような状況においては、生活者・患者の方々、そして医療ヘルスケア領域に関わる様々なステークホルダーにもデジタルが浸透し、デジタルへの考え方や扱い方も大きく変わりつつあると感じています。そのような中においては、これまでの私たちのようなデジタル・プロダクトの提供者側がこのような機能を提供すればよいであろうと思考してプロダクトを提供していく形(プロダクトアウト的な思考)ではなく、生活者は患者、さらには医療ヘルスケアステークホルダーといったプロダクトを利用する人の中において存在するニーズや悩みに対して、役立つプロダクトを提供し、利用者の体験価値を変えるようなプロダクトを提供できるようにする必要があるのではないかと考えています。

 そのために私たちは、利用者側のニーズを把握して提供するプロダクトを考案し提供する、そしてそのフィードバックを得ながらさらに改善を重ねていくというプロセス(デザイン思考)を取り込むことが、世に出た芽を、1→10へと今度は大きく花開くための要素と考えています。そしてメディエイドとしては、最終的に生活者・患者が笑顔で、そして利便性高く医療ヘルスケアにアクセスできるような世界を目指し、生活者・患者、そして医療ヘルスケア・ステークホルダーを支援していくためのプロダクトを、LiNQ-CIRCLEプラットフォームを起点として提供していきたいと考えております。そして2024年以降はデザイン思考を、UX/UIデザインを積極的に開発プロセスに取り込み、当社の開発プロセス自体を大きく変容させたいと考えています。またこのような取り組みを当社のみで実現することの限界はすぐに訪れますので、様々なパートナー企業とも連携をし、一緒に様々なプロダクトを創出、共創してまいりいたいと考えております。私たちのプラットフォームは単にPHRプラットフォームという枠組みを超え、サービス/プロダクト共創のためのプラットフォームという位置づけにしたいと考えています。

 さらに2022年に一度刷新したばかりのミッション・ビジョン、そして私たちのバリューについて、ミッションついてはより端的で包括的な内容に、ビジョンについては生活者・患者、そして医療ヘルスケアステークホルダーに新たな体験価値を提供ということに言及した形に変更をし、それを提供する当社としてのバリュー、私たちの姿勢をバリューとして明確化し、私たち社員そしてパートナーの行動規範の礎とすることにしました。またデザイン思考に対応できるような私たちの組織デザイン、そして生活者・患者とのコミュニケーションデザイン、そして誰もが使いやすく、また開発しやすいUIデザインのために、当社では「メディエイド・デザインシステム」を構築することとし、①利用体験価値、②ブランド伝達、③品質強化、④開発効率化を目指し、当社のミッション・ビジョン・バリューにつながる形での運営理念を起点としたデザインシステムをまとめることとしました。これにより私たちは1→10へとステップを上げる中において、

 医療ヘルスケア × ビジネス×デジタル×デザイン

を軸にして今後は進め、ミッション・ビジョン・バリューに沿った事業を進めていきたいと考えています。

少しでもこの日本社会を、そしてグローバル社会を支えることができれば、これに勝る喜びはありません。

※1「VUCA(ブーカ)」とは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字をつなぎ合わせた言葉です。これら四つの要因により、現在の社会経済環境が極めて予測困難な状況に直面しているという時代認識を表します。

※2 印象や機能をもって実用的に使われる「デザイン」と自己表現をメインとする「アート」は別ものです。上記で述べている「デザイン」はさらに、サービスについてのデザイン、さらにプロセスをどうするかというデザインや、組織のデザイン、さらにはコミュニケーションのデザインといった広義なデザインの意味となります。そしてこれがイノベーションの源泉になると考えています。

2024年3月15日
株式会社メディエイド
代表取締役社長CEO 矢島 弘士