PHR(Personal Health Record)

パーソナルヘルスレコード

メディエイドにおいては創業以来、「患者中心医療」という考え方をコアとし、がん患者および家族のための闘病記サイト「ライフパレット」を開始しました。
闘病記サイトにおいては、日々の日常のことが綴られるのみではなく、病院で受けた検査のこと、現在服用しているお薬のことや副作用の症状、そして悩みなどがナラティブに綴られたサイトでした。
PHR(Personal Health Record/パーソナル・ヘルス・レコード)という言葉が2010年頃から出てきましたが、PHRの捉え方にも色々とあると思います。
ここでは、私たちメディエイドが考えるPHRについての考え方について、本ページにて整理をさせて頂きました。

PHR(Personal Health Record/パーソナルヘルスレコード)の定義

PHRとはPersonal Health Record(パーソナルヘルスレコード)の略で、すなわち「個人の健康情報」のことを言います。デジタルを活用して健康・医療・介護に関する患者の情報を統合的に収集し、一元的に保存したデータのことで、「生涯型電子カルテ」といわれることもあり、米国診療情報管理学会においてはPHRを次のように定義しています。

 

「PHRとは、患者が保持する生涯に渡るカルテであり、患者の意思決定や医療の質向上に貢献するもので、医療機関だけでなく、個人からの情報を取得し管理するものである。また、PHRは、個人が主体的に用いるもので、アクセスの検討、管理も個人が行う。」

 

この定義にある通り、PHRには患者自身で入力したデータと、病院・診療所の電子カルテや調剤薬局の薬歴システムなどから取り込まれるデータの2種類があります。

後者はすなわちEHR(Electronic Health Record:電子健康記録)やEMR(Electronic Medical Record:電子医療記録)から出力されたデータとなります。このようなデータを1ヵ所に集め、本人が自由にアクセスでき、それらの情報を用いて健康増進や生活改善につなげていこうというシステムがPHRです。 病院・診療所や検査機関からの診察・検査データ、保険者保有の特定健診データ、薬局からの薬剤データ、自己測定による血圧や血糖、体重、食事や運動、服薬などの情報についても、スマートフォンのアプリに記録、管理できます。今後の急激な少子高齢化、人口減少が進む我が国にあって、更なる健康寿命の延伸に向けた取組を進めるための仕組みの一つとして注目されています。

EHR/EMRとは

前述の説明にも出てきましたが、PHRに類似する言葉として、EHRやEMRという言葉がありますので、ここで合わせて説明します。
まずEHRとはEHR(Electronic Health Record:電子健康記録)は個人のあらゆる診療情報を生涯にわたって電子媒体に記録し、その情報を各医療機関の間で共有・活用する仕組みのことを指します。
EHRにはあらゆる医療情報が含まれ、既往歴や薬歴、アレルギー、予防接種日、検査の画像レポートなども蓄積できます。HERがしっかりと発展することができれば、という大きなメリットを国民全体が享受できるものだと考えています。

 

①患者の診療情報を把握しやすい

②医療機関同士で診療情報を連携できる

③医療の発展に役立つビッグデータを蓄積できる

 

しかし、日本でも数種類のEHRシステムが提供されていますが、電子カルテのデータ標準化が進まずに、高コストなシステムになってしまったという状況であると考えています。

 

またEHRと近い用語にEMR(Electronic Medical Record:電子医療記録)があります。 これは各医療機関が保存している「電子カルテ」を指しています。 従来のカルテは紙で保存されていましたが、EMRはデジタル化されてデータベースに保存されます。 EMRは紙カルテと比較すると、医療機関内に保管スペースを確保する必要がなく、検索性や可読性、長期保存性に優れている点が特徴で、各医療機関においては各種のEMRシステムが導入されています。 なおEHRおよびEMRシステムは、PHRサービスを使って患者自身の電子記録の一部にアクセスする手段を患者に提供するというケースも出てきています。 これによって患者はセキュリティが確保されたWebポータルを利用して、EHRやEMRシステムに保存された検査結果などのデータにアクセスし、いつでも参照できるようになります。

 

 

 

患者が記録したPHRデータ

最近ではスマートフォンやタブレット端末などのスマートデバイスやIoT(Internet of Things”の略でモノのインターネット)の技術進展によるウェアラブルデバイスの普及、さらには5G(次世代通信規格)による高速で大容量な無線通信環境、VR(Virtual Reality:仮想現実)やAR(Augmented Reality : 拡張現実)などのデジタル技術の進展によって、患者のデジタル環境は大きく変わってきました。

 

そのようなデジタル技術の進展に伴い、スマートデバイスやIoTを起点として、患者や健常者による自己測定で測定をした血圧や血糖、体重、体温などのデータの他、歩数や消費カロリーなどの運動データ、そしてスマホで撮影した食事写真や写真からAIで計算されたカロリー等の栄養素データなどの患者自身から登録されたヘルスケアデータが容易に取得できるようになってきました。特に、iOSに搭載されるHealthKit(ヘルスキット)には近年、体組成計や血圧計等の様々なヘルスケアデバイスのデータを連携、蓄積できるようになってきており、以前ではアプリでヘルスケアデバイスとデータ連携をしようとした場合には、ヘルスケアデバイスごとにデータ連携のための開発が必要となっていましたが、このHealthKitに連携するヘルスケアデバイスの増加に伴って、アプリはHealthKitとのみデータ連携をすれば、様々なヘルスケアデバイスとデータ連携が可能な状態にもなりました。

 

 

 

 

 

 

またこのような定量的に取得できるヘルスケアデータの他に、患者のみが知りうる症状(痛みや気分、倦怠感など)についても、その症状のスケールをスマートフォン上のアプリで患者自身が記録するデータなどもあります。最近ではある特定の疾患をもつ患者を支援するアプリも増えてきており、その特定の疾患でよく現れる症状を記録し、それをグラフや一覧で振り返るようにする患者サポートアプリも、患者サポートプログラム(患者支援プログラム)の一貫として製薬企業などから提供されるようになってきました。

 

 

 

 

 

 

さらにメディエイドとして2008年に開始したがん患者および家族のための闘病記サイト「ライフパレット」では、がん患者が日々の生活を綴ったナラティブなデータも患者自身で入力したヘルスケアデータということができると考えています。従来はこのようなデータが保存され、そして医療従事者にて確認しようとしてもすべての文章を読む必要があり、その負担などを考えると医療現場での活用は難しいものでした。しかし近年では、ChatGPT(OpenAI社)やBERT(Google社)を始めとする大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)の登場を受けて、自然言語処理技術が格段に向上しました。自然言語処理とは、言葉や文章といったコミュニケーションで使う「話し言葉」から、論文のような「書き言葉」までの自然言語を対象として、それらの言葉が持つ意味をさまざまな方法で解析する処理技術のことを言います。このの技術向上に伴って、例えば、日々に患者が綴っている情報からその疾患に特有の副作用が出ていることを書き手である患者に伝える、さらには診察の際には関連する副作用に関する関連の文章と、その発生日など医療従事者にサマリーにして伝えるなどのことも可能になると考えています。

 

 

 

医療機関や薬局などから提供されたPHRデータ

このようなPHRデータについては、2010年頃に「どこでもMY病院」(国民が自らの医療・健康情報を電子的に管理・活用するための全国レベルの情報提供サービス)という構想が計画されました。その第一歩は、2011年にJAHIS(一般社団法人保健医療福祉情報システム工業会)が標準化したお薬手帳データ用二次元コードを患者に提供できるようにするという動きです。患者はその二次元コードをスマホアプリで読み取ることで、患者自身でお薬手帳データを管理できるようになりました(電子版お薬手帳)。2016年に紙のお薬手帳のみでなく、電子版お薬手帳でも算定として認められるようになり、一気に電子版お薬手帳が広まりました。

 

また2021年10月からはマイナポータルにおいて、医療保険の薬剤情報、特定健診情報なども取得が可能になりました。さらに今後においては検査データの取得なども可能になると計画されていることから、さらに患者自身が医療データを保持することができるようになってきます。

 

さらに病院・診療所の電子カルテから出力されるデータについては、これまで標準的なデータとしてSS-MIXの仕組みで出力されてきていましたが、最近は電子カルテの標準化も進められており、その標準規格であるHL7 FHIRのフォーマットでデータ出力がされるようになってきました。このHL7 FHIRを活用して医療機関の電子カルテから出力された処方データや検査値データなどを患者アプリに取り込めるようにし、患者が公開することに同意した医療機関にのみ、患者アプリから他の医療機関にその蓄積されたデータを公開していけるようなサービスも登場し始めているという状態です。

PHRデータの活用

1)医療従事者とのコミュニケーション

コロナ禍以降で解禁されたオンライン診療やオンライン服薬指導においては、オンライン上で医療従事者は患者から症状を確認するなどの必要がでてきます。また最近は栄養指導をオンラインで実施するケースなども出てきています。そのようなオンラインでのコミュニケーションを行う場合には、患者が自身で持ってるPHRデータを相手の医療従事者に公開することで、コミュニケーションをより適切かつ効率的に行えるようになると考えています。

 

2)患者サポートプログラム/患者支援プログラム(Patient Support Program/PSP)

最近では製薬企業等が医療機関や主治医から紹介されて同意を得られた特定の医療用医薬品を処方されている患者に対して、電話等によって社会保障制度や日常生活における工夫、薬の適正使用ガイド等の情報、薬の投与スケジュール管理情報などを提供するケースが出てきています。このような患者支援プログラム(Patient Support Program/PSP)は、一方的な情報提供のみでなく、スマホアプリやLINE公式アカウントなどを使って患者にて症状を記録し、その症状記録を診察前に振り返えることで、医師との診察時のコミュニケーションを支援するような仕組みを提供しているケースなども出てきており、これもPHRの一つの活用方法と考えています。

 

3)ePRO(electronic Patient Reported Outcome)

ePROとは、電子デバイスを用いて患者が評価したアウトカムであるPRO(Patient Reported Outcome)データを収集することをいいます。従来PROは院内で紙媒体を用いていましたが、スマートフォン端末などの発展に伴い、ePROが用いられつつあります。ePROを活用する利点としては、データの質向上や収集データのエラー削減、データ入手率の向上、データへのタイリーなアクセスが可能になるなどのことが挙げられます。ePROで使われる評価項目に加え、日常のPHRデータを組み合わせることで、医療アウトカムの改善などが期待されます。

 

4)インシュアテック(保険テック)

保険業界では最近、歩くと保険料の一部が返ってくる、といった保険が出てきています。今後、PHRデータで様々なデータを保有することができるようになれば、そのようなPHRデータを活用した保険の仕組みも出てくるのではないかと考えています。

 

5)患者エンパワーメント

今後の超高齢化社会に伴って医療費がさらに増大する中においては、より国民全体の医療健康リテラシーを増やし、そして患者のみならず健常者においてエンパワーメントを進めていくことが非常に重要になると考えています。そのような中で、PHRデータを個人が保有し、自分の状態を正確に把握した上で、必要な医療ヘルスケアに関する情報を取得することによって、医療従事者とコミュニケーションを適切に取れるようにすることは、行動変容を促すことにつながるのではないかと考えています。例えば、保有するPHRデータを使って検索をする、もしくはチャットボットに聞くとその人にあった医療ヘルスケア情報が信頼あるサイトから提供されるような世界も作れるのではないかと考えています。

   

PHRにおけるセキュリティ対策

   

現状でPHRに関して基本となるセキュリティ対策としては、厚生労働省・総務省・経済産業省が2021年4月に公表した「民間PHR事業者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針」の別紙「本指針に係るチェックシート」という事業者の情報セキュリティや個人情報の取り扱いに関するチェックリストがあります。その中では組織的・技術的・人的・物理的セキュリティ対策が記載されており、中小規模の事業者でも着手しやすい基本的な内容となっています。PHRサービス事業者はこれを参照することで、基本的なセキュリティ対策を行うことができると考えています。 なお今後、マイナポータルからの情報や電子カルテからの情報がPHRに入ってきて、医療機関等においてPHRデータを診療録に準ずる記録として活用する場合には、医療情報ガイドライン(3省2ガイドライン)への対応も必要になってくると考えられます。

メディエイドのPHRにおける取り組み

メディエイドにおいては、2008年にリリースしたがん患者および家族のための闘病記サイト「LifePalette(ライフパレット)」を、2016年にPHRプラットフォームとして拡張し、2022年8月にそのアーキテクチャを大幅に刷新した「LiNQ-CIRCLE(リンクサークル)」をリリースしました。
このリンクサークルは、患者のみでなく健康的な生活者も加え、PHRを起点として、医療保険者(自治体・協会けんぽ・企業健康保険組合)、医療機関、薬局、介護事業所等の様々な医療ヘルスケア・ステークホルダーをつなげ、生活者および患者のジャーニーをトータル的に支援するプラットフォームです。
本プラットフォームに接続可能な様々なPHRアプリの開発などもご支援させていただいております。
当社の取り組みについて、詳しくはサービス紹介サイトにてご案内しております。

Recruit
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